窓の可能性の発見 自由になった窓

窓の可能性の発見 自由になった窓

最近の建物に於いては、従来の考え方から脱却した窓が増えています。そこには窓の新たな可能性が伺えます。いくつか日本の建物をご紹介しながら、もっと楽しく窓を考えるヒントを見つけて行きましょう!

■間戸の消失 TOD’S表参道ビル/伊藤豊雄・GSH/ヨコミゾマコト

tod`s 表参道ビル

この建物の窓の形、何に見えますか?
これはケヤキ並木が美しい、東京・表参道に建てられたTOD’S表参道ビルです。この建物にはケヤキの幹が転写され、ガラスがコンクリートに象嵌されたようになっています。
本来、木造住宅の柱・梁は、垂直・水平部材として上からの力を下へと伝えるものでした。「間戸の住まい」で書いた間戸の考え方はこのことが基本でしたが、鉄筋コンクリート造等では一概に柱・梁は垂直・水平部材ではありません。TOD’S表参道ビルでは窓以外の斜めに走る壁、つまりケヤキの幹にあたる部分が鉄筋コンクリート造の構造体の役目をしており、幹と幹の間の不均質な隙間に枠のないガラスを嵌め込むことで、外壁と窓とを一体に構成しています。

夜、ケヤキ並木越しに見る、光を放ったこの建物の姿はとても綺麗でした。

GSH次の写真は東京・青山の狭小敷地に建てられたGSHという住宅併用テナントビルです。この建物は薄肉鋼板で造られ、外壁や構造体のスペースを最小にすることで最大限室内空間を確保しています。この鋼板が外壁を兼ねた構造体となり、自由に大小様々なサイズの丸い開口がランダムに穿たれています。

 

 

 

 

■極限の窓 光の教会/安藤忠雄

光の教会

自然の力、光の持つ力、ただそれだけで建築空間の全てを決定している窓があります。

写真の建物は大阪にある教会で、小さいコンクリートの四角い箱ですが、余計なものを取り払い最後に必要なもののみを残したら、祭壇の背後に穿たれた十字型のスリット窓のみとなったという力強い建築です。
光の十字架が、祈りを捧げる精神的な拠り所であり、象徴としての役割を果たしています。実現はしませんでしたが、この建物を設計した建築家・安藤忠雄氏は、このスリットにガラスを嵌め込むことを拒んだと言います。
外と完全に繋がったガラスのないスリットというのが当初のコンセプトであったようです。もし実現していれば、より自然の力を感じることができたのかも知れません。

■不規則な配置の窓 情緒障害児短期治療施設/藤本壮介

この写真は小さないくつもの四角い建物が建っているように見えますが、実は、四角い箱をランダムに配置し、それらの間をガラス窓で繋げ、全体として1つの大きな建物になるように構成されています。それぞれの四角い箱には大きさの異なる窓がレベルも不規則に配置され、その集合としての建物は、まるで1つの小さな街であるかのようです。
人や人が生活する場というものは必ずしも画一的なものではなく均質でないこと、又、それぞれの個の集まりが一つのユニット・環境を創り出しているという建築の考え方が、平面や立体構成、窓の形や配置にも表現されています。
このような色々な窓を見ていると、窓の概念の変化を感じます。
南面だから、壁があるから窓をつける、窓があるからガラスを嵌め込むという発想ではなく、開口部によって、ガラスによって、どんなことが可能になるのかという発想です。画一的な窓だけでなく、自由な発想で、自分やその建物、考え方を表現する一つの要素として窓を考えてみてはいかがでしょうか。窓を設けることがもっと楽しいことになりそうではありませんか? 

*この文章は板硝子協会「エコガラス」ホームページにて連載されたコラムを一部加筆、修正したものです。